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“におい”を“見る”ことができる?
においを可視化する技術を開発中!
AIが加速させた、においの分析技術

#においセンサ

【においセンサ vol.1】みなさんは人間がどのようにして“におい”を感じているかご存じですか?五感の中で研究が最も遅れている嗅覚。謎に包まれた“におい”がもたらす未来について、最新の「においセンサ」の開発を担当している服部将志さんにお話を伺いました。

今回のナビゲーター

太陽誘電(株)
開発研究所
機能デバイス開発部

服部 将志課長

視覚にだまされる? 謎だらけの“におい”の世界

「人間の嗅覚って、実はそんなに当てになるものじゃないんです」―。
開発担当の服部さんはそう切り出しました。そもそも“におい”とは何なのか?においセンサの開発は 「においを知ること」からの出発でした。インタビューの冒頭、服部さんはこんな実験例を教えてくれました。

服部:例えば、リンゴの絵を見せながらリンゴのにおいをかいでもらったら、ほぼ全員それがリンゴのにおいだとわかります。しかし、においだけをかいでもらうと正答率は約50%。人間の嗅覚は、視覚や他の情報に補完されて感じられるものなのです。

動物がにおいを感じる上で重要な役割を果たしているのが、においをキャッチする「嗅覚受容体」。いわゆるセンサのような存在です。この嗅覚受容体の存在が1990年代になって確認され、ようやく人間がにおいを感じるメカニズムが解明されました。

――どのようなメカニズムでしょうか?

服部:においの分子と嗅覚受容体の関係は、いわば「カギ」と「カギ穴」のようなものです。においの分子(カギ)が嗅覚受容体(カギ穴)にカチッとハマることで、においを感知します。

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▲においのメカニズムを説明する服部さん/工学系出身で“におい”という生物学的分野はまったくの未知の領域だったそう

服部:さらに、嗅覚細胞という変換機のような役割を果たす細胞があり、嗅覚受容体がキャッチしたにおいを、嗅覚細胞が電気信号に変換し脳に送られ、過去のにおいの記憶と照合し、それが何のにおいかを判断します。

――つまり、嗅覚受容体の種類が多いほど、たくさんの種類のにおいをかぎ分けることができるということですか?

服部:そうです。人間が持っている嗅覚受容体が約400種類であるのに対して、犬の嗅覚受容体は約800種類あり、犬は嗅覚が人の1,000倍~1億倍優れていると言われています。さらに、線虫は犬よりも多い1,200種類もの嗅覚受容体を持っています。実際、初期ステージのガン患者の尿のにおいに対し、90%の確率で線虫は反応するそうです。線虫の嗅覚を利用して作られたガン診断キットがあるのですが、尿1滴だけで判定できるほど線虫の嗅覚は優れています。

成長が見込まれる市場「においセンサ」の潜在価値

いまだ開拓されていない分野であるものの、今後の成長が見込まれるにおいや香りに関する市場規模。様々な分野で活躍が期待される「においセンサ」の開発について伺いました。

――そもそも、どのようなきっかけで、太陽誘電がにおいセンサの分野に進出することになったのでしょうか?

服部:人間の五感の中で唯一商品化されていないのがにおいセンサで、潜在的な市場価値が非常に大きいことがわかりました。また我々が持っている、有機材料や無機材料、圧電などの材料技術が非常に使えるということがわかりました。

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▲開発中の「においセンサ」QCM型プロトタイプ/自社の培った技術とAI技術を活用し においをデータ化していく

服部:においセンサは、他社が先行してない魅力的な市場なのに、なぜ今まで商品化されてこなかったかというと、においに関してまだまだ謎の部分が多いからなんです(苦笑)。
視覚であれば三原色(赤・青・黄の三原色)、味覚であれば五味(甘味・酸味・塩味・苦味、うま味の五味)の基本となるものがありますが、においは自然界に数十万種類も存在し、基本のにおいというものがありません。どういう軸で分析・評価すればいいのかが、 すごく難しいところです。

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▲筐体に設けられたPC接続端子と吸排気口/内蔵ポンプで空気を吸排気し 内部のにおい成分をリフレッシュさせる

服部:私たちが普段認識しているにおいは、複数のにおいの分子が組み合わさってできています。例えば、コーヒーの香りであれば約100種類のにおいで構成されており、人間の脳はその識別を瞬時にすることができます。それを機械でやることはとても難しかったのですが、近年AIの発達で複雑な計算や解析を同時に行なうことができるようになり、人の脳と同じようなにおいの判別ができる可能性が出てきました。今後、このAIを上手に使いこなすことができるかが商品化のカギになると思います。

「AIでパターン学習&解析」においセンサの仕組みとは?

太陽誘電で開発されているにおいセンサは、16種類のチャンネル(※人間の嗅覚受容体にあたる感応膜)を持っており、検出したにおいをデータ化します。AIにあらかじめ様々なにおいデータのパターンを覚えこませることで、実際ににおいを感知した際にどのパターンに最も近いかを割り出し、においを判別します。

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▲におい分析の原理/水晶基板上の吸着膜に におい分子が吸着することで水晶(クオーツ)の共振周波数が変化。その周波数の変化量でにおい成分を解析

――つまり、各チャンネルの感度をより上げていき、さらにチャンネルの数を増やしていけば、より人間の嗅覚に近い感知が可能になるということですか?

服部: 理論上はそうです。チャンネルに関して、16種類から数を増やせば、より多くの種類のにおいを感知することはできます。とはいえ、現実的に工業製品に人間と同じ400種類のチャンネルを持たせることは難しいですし、実際にそこまでの数が必要かというとそうではありません。感知が必要な範囲のにおいさえ判別できればそれで十分なんです。
より必要とされるのは、(チャンネルを増やして)幅を広げることではなく、感度を高めていくことです。いま現在特定のにおいに関しては人間の鼻くらいのレベルまで感知できるようになっていますが、これをさらに深化させ、犬のレベルまで感知できるようになれば、用途がより広がっていくと思います。

――今後、においセンサが商品化された際に、どういった分野で使用されることになるのでしょうか?

服部:お客さまから寄せられる声としては、「異常検出」や「予防保全」の分野で使いたいという方が多いです。近い将来、少子高齢化で保安点検の分野での労働力確保が難しくなると予測されます。それらをセンサで代替できればと考えている企業は多いと思います。
いまは人間がやっていても、数年後には確実に人がいなくなっていくとわかっている分野にとって、代わりとなる労働力の確保は切実な課題だと思います。

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▲においセンサの活用イメージ/煙などのガスが発するにおい分子をもとに 異常を検知するソリューションが考えられている

――分野を変えて、例えば農業での使用を考えたとき、果物の最適な収穫時期をにおいによって判別する、などは可能ですか?

服部:実際に要望はあります。果物からは特有のガスが出ていて、熟成度をにおいで感知することは可能ですし、逆に熟し過ぎると腐敗に近いガスが出てきます。食べごろのにおいをセンサで判別することは近い将来できるようになると思います。
現在、人間の嗅覚レベルから犬の嗅覚レベルを目指して研究が進められていますが、動物の限界レベルさえも超えたにおいの感知が可能となれば、思いもよらない分野で活用され、人類の進歩に大きく寄与する可能性もあります。

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▲におい検知技術を深化させることで 動物や人が判断していたことを代替・高精度化が可能に(イメージ)

服部:例えば、犬のレベルの嗅覚を備えたセンサが商品化されれば、麻薬犬や爆薬探知犬の仕事を代替することができると思います。動物愛護という観点はもちろんですが、コストの面でも麻薬犬は育成に7~8年かかり、疲れやすいので稼働時間もかなり限られているそうで、非常にコストがかかります。その機能をセンサに置き換えることができるのであれば、市場価値は非常に高いと思います。

解明が進む嗅覚の領域は、私たちの常識をどう変える?

においセンサや分析技術は、今後、ヘルスケア領域やセキュリティ、防災の領域などでも活用が見込まれると服部さんは語ります。

例えば、人間がストレスを感じたときに発する、ごく微量の「皮膚ガス」をウェアラブル端末で検知し、日々の体調モニタリングができる可能性や、犬が人間をにおいで識別していると言われていることから、究極的には、においによって個人認証を行なうこともありうると考察してくれました。また、土壌中のガスの変化を検知することで、土砂崩れの予兆をキャッチできるかもしれないとも。

「においセンサ」の技術進歩の先に、今の私たちには想像もできない可能性があると感じたインタビューでした。

今回ご紹介した技術

太陽誘電ホームページで
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