TAIYO YUDEN

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テレビで“におい”を伝えられる?!
常識を変える「におい生成の技術」は
実現可能か聞いてみた

#においセンサ

【においセンサ vol.2】「においの見える化」について伺った前回のインタビュー。においをデータ化できるなら、逆に、においを作ることも可能なはず…。しかし!そこには思わぬ壁があったのです。今回は「においを作る技術」について伺いました。

今回のナビゲーター

太陽誘電(株)
開発研究所
機能デバイス開発部

服部 将志課長

究極の飯テロ?「においの出るテレビ」の開発は可能か?
「においの見える化」がもたらす新たな未来予想図

想像してみてください。深夜のグルメ番組を見ているとき、テレビの画面から美味しそうなにおいが漂ってきたら…。究極の飯テロとも言えるこんなテレビがあれば視聴者はもちろん、番組やCMの制作者も大喜びなのでは?
実際のところ、そんなテレビは実現可能なのか?前回の「においセンサがもたらす未来像」に引き続き、においセンサ開発担当の服部さんに伺いました。

まず、ストレートに「においの出るテレビの開発は可能ですか?」と尋ねたところ、服部さんは少し間を置き「現時点では難しいかもしれませんね…」と回答。 「ただし」と言葉を続けて、実現の可能性を考察してくれました。

服部:あくまでも私たちが行なっているのは「においセンサ」の開発です。においを検知し、そのにおいを可視化(データ化)するところまでです。そこから先はテレビメーカーさんのお仕事になりますので…。
しかし、においを「可視化」することができれば、そのデータを基に、においの成分を組み合わせ、同じにおいを生成することは技術的には可能だと思います。
テレビやリモコンに“においのもと”を仕込んでおいて、必要に応じてにおいを組み合わせ、放出する仕組みができれば、においの出るテレビは不可能ではないかもしれません。

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▲太陽誘電で開発中の「においセンサ」MEMS半導体型プロトタイプ/スマホと接続し 周囲のにおいをリアルタイムでデータ化する

お話に出ていた「においの生成」とは複数のにおいの成分をその場でブレンドし、放出する技術のこと。しかし、においを放出するという点で言えば、現在でも芳香剤や消臭剤といった様々な「におい関連商品」が出回っています。しかし、それらはあらかじめ用意された特定のにおいを出すにとどまるのだと服部さんは説明してくれました。

――においに関する市場において「消臭」もひとつのジャンルとして確立されていますが、においの「生成」と「消臭」に違いなどはあるのでしょうか?

服部:技術的な意味で言えば、においを消すほうが簡単だと思います。においを消す方法は大まかに分けて「より強いにおいで覆う方法」、「正反対のにおいを出すことで無臭状態を作る方法」が考えられます。ある程度(消臭の)やり方が決まっていて、特定のにおいに対してどう対処するかパターンが確立されているのです。
だからこそ、消臭に関する製品は数多く出回っているのですが、「においを生成する」というのは、自然界に数十万種類あるにおいを組み合わせて作るわけですから、より複雑で難しいと言えます。

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▲においセンサの開発拠点「太陽誘電R&Dセンター」 服部さんはじめ開発メンバーは日々におい分析の技術と向き合っている

においの情報をクラウド上でデータベース化する

においを生成するための前提として、においの「センシング(感知)」「判別」そして「データ化」の工程が必要とのこと。特にデータ化は“AIによる事前学習”がポイントになるそうです。服部さんはその苦労をこう語ります。

服部:誤解されがちな部分ではありますが、我々のにおいセンサは、どんなにおいも一発で検出して判別・データ化できるというわけではなくて、AIに対しての事前学習が必要です。あくまでも事前に学習させたにおいのパターンとの一致度合いでにおいの種類を判別するのが、我々のにおいセンサです。

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▲センシングと判別のイメージ/におい成分の構成の違いによって においから対象物を判別していく

服部:におい判別のために、まずは、においに対して課題を持つお客さんの元に足を運び、においデータの採取や、検出したいにおいのヒアリングをします。その上で、ラボ内でそのにおいを再現し、AIに、においパターンを学習させることを積み重ねていかなくてはいけません。においパターンの蓄積とデータベース化ができれば、初めてセンシングするにおいに関しても、データベースと照合して、「どういったにおいに近いか」を判別できるようになる日が来るかもしれません。

ただし、その道のりはまだまだ長そうです。そこには、業界全体が抱える課題があると言います。

服部:まず各社が開発しているセンサとの間でにおいのデータに互換性がないので、今の段階で多くのデータを集めても、自社の中でしか意味がないと考えられます。言ってみれば、各社でオレンジのにおいをデータ化したとしても、各社のセンサごとで反応が異なるので、データにも違いが出てきます。どのようなデータが基準になるのか、においデータの規格の統一化は将来のにおいのデータベース化に向けての重要な論点になってくると予想されます。

――かつてのビデオの規格をめぐってのVHSとベータの“戦争”のような?

服部:正直、まだ競うような状況にも到達していないというのが現状です。においセンサという製品自体、まだ市場に出回っていない中で、まずは特定のデータを蓄積することよりも、においに関する課題を抱えて困っているお客さまに対して、においセンサでできる解決策を提案し、協力して課題を解決していくことで、商品化に近づけていくということを第一に考えながらやっている状況です。
この先、いろんな競合他社がにおいセンサを商品化し、クラウド上にデータを上げることが一般化してきたら、やっとデータベース化の意味が出てきます。そうなったらようやく「においのデータを互換性のあるものに標準化しましょうか」という話が出てくるでしょう。

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▲オレンジのにおいをセンシングした例/16のチャンネル(におい検知のセンサ)の反応の違いを総合して「オレンジのにおい」と判定している

においは「感じる」ものから「見える」ものへ

――将来的に、においの生成技術を活かすことができそうな分野、商品などはあるのでしょうか?

服部:消臭の技術とうまく組み合わせることができれば、様々な分野で使えるかもしれないと思います。例えば、事前に部屋の理想的な空気のコンディションを登録しておいて、部屋の状態に合わせてセンシングし、最適な消臭剤や芳香剤を出して、部屋のにおいを一定に保つということはありうると思います。
お掃除ロボットににおいセンサを搭載することで、部屋の隅々まで掃除しながら、悪臭がする場所に消臭剤を噴射するということもできるでしょう。

近年、広がりを見せるシェアリングサービスでの需要も見込まれると想定しているそうです。

服部:カーシェアやルームシェアなど、シェアビジネスが広がっていますが、そこでも消臭というのは重要な要素です。我々が言っている「においの見える化」というのは、これまで「いいにおいがする」「くさい」などと主観的にとらえていたにおいを、客観的な数値にするということです。そうすることで、客観的なエビデンスでもって「きちんと消臭されています」などと示すことができるようになります。

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▲開発の苦労を聞いた時「“くさい”においも嗅がなくちゃいけなくて…」とこぼれ話も

服部さんは、においセンサへの関心の高さを、実際の事例を交えて説明してくれました。

服部:「においの見える化」という部分に関しては、多くの調香師を抱える香料を扱う企業さんからも興味を示していただいています。調香師が自身の感覚で作り上げている部分をできるだけ数値化、データ化していきたいと。
これは消費者の側にとっても同じで、自分のお気に入りの香りのデータを登録しておくことで、香水などをオンラインで購入することも可能になるでしょうし、AIがその人のお気に入りのにおいデータに合わせて、商品をレコメンドしてくれるという機能も付くかもしれません。
前回のにおいセンサの話で、体臭から体調をモニタリングすることが可能になるかもしれないというお話をしましたが、そうした機能をペットロボットに搭載することで、飼い主のにおいをセンシングし「ちょっとお疲れのようですね」などと言ってくれるようになるかもしれませんね。

「においの出る〇〇」で広がる可能性は無限大

将来「においを生成する」技術が完成したら、「においの出る〇〇」という商品が一気に一般化していくのかもしれません。「このにおいが嗅げればいいのに」「このにおいを他の人とも共有したい」というアイディアも実現できるかもしれません。「におい生成」と「におい分析」は対になる技術。においセンサの技術向上に期待したいですね!

今回ご紹介した技術

太陽誘電ホームページで
詳しく解説しています